ル・クプルという建物名称は、当時流行っていたデュエットの名前から取っています。「陽だまりの詩」という曲だったと思います…。

 別に歌とこの建物との因果関係はありません。町家によくある細長状の敷地で、敷地の広さは300m2程度ありました。1筆の敷地に建築主の血縁関係の3軒の家が建っていて、道路に面する部分の一つに子世帯が居住する比較的新しい軽量鉄骨のプレファブ住宅がありました。接道は短辺の2面のみで、細長い敷地の中央に道路に面さない位置に親世帯の老朽化した住宅があり、その親世帯を建替えてプレファブの子世帯と機能的に一体にして、二世帯住宅にして欲しいというのが、建築主の要望でございます。

 完全分離型二世帯住宅「園田エクスペリメント」が、ハウス雑誌「ニュ−ハウス」にムックも含め何度か掲載され、それを見ての依頼でした。計画的にも、極めて難しい問題を孕んでいて、現状では解体はもちろん、工事的にも搬入路がない状態でございました。可能な方法は反対側の道路に面している親世帯のご主人の妹さんの家の一部を解体撤去することしかありませんでした。妹さんの家は親世帯と同様に老朽化していて、一人住まいでもあり、解体する箇所が使用していない平屋の部分であったこと、元々増築部分であったことで解体後構造的に支障もないことが確認できました。普通なら、たとえ血縁であっても解体撤去の同意は得られないのですが、建築主の特殊な事情、すなわち二世帯住宅にしなければならない「事情」があり同意を得ることができたのです。

 その事情とは、建築主の奥様が重度のアルツハイマにかかり介護を必要としていて、そのための二世帯化工事だったのです。依頼を受けて取り敢えず親世帯の家に伺い、ご家族を見た時引けない状況となってしまいました。親世帯に許された敷地は厳しく、建築法規上の採光を確保するのも困難な状態で、バリアフリ−でかつプレファブとの接続、様々な難問を抱えた計画でありました。内部写真はリビングの吹き抜けです。2階ブリッジの向こうにル−フデッキが存在しているのですが、これは光庭であり、階下のリビングに光のシャワ−を落す目的で、また、飼い犬のスペ−スとして、子世帯との共用物干し場として、連絡ル−トとして多目的に機能させることになりました。2階部分は子世帯の子供部屋と客間になっています。親世帯は1階に全機能を集中させバリアフリ−となるよう配慮しています。1階床は土間スラブ床にしていてコンクリ−トの床では固すぎるので、根太フォ−ムを使用し、車椅子にも対応させています。某ハウスメ−カ−のプレファブ住宅の子世帯に対し、親世帯は2x4木造として簡易的エキスパンションジョイントを自分で設計し安く接続しています。プレファブ住宅の外壁パネルはカバ−の留めが利かずで、エポキシ接着といたしました。常識で考えると不可能な設計だったと思います。

 ル・クプルの名前は、二世帯が仲良く共棲することと、アルツハイマという難病を抱えながらも夫婦の絆を育む姿勢から銘々しています。道路には面さないため、あまり外観には拘りはないのですが、窯業系のラムダというパネルサイディングを使用し、ウレタン塗料でアクセントカラ−を付けています。

 経済的には余裕のあるご家族なので、ロ−コストにすることよりも、まず良質な良い住宅となるよう意識しています。

 ただ、いつもながら、終わってみれば後悔ばかり残っています。家造りとはそんなものかもしれないと思います…。アルツハイマというあまり認識のない病気を知るにつけ、ある種の使命感みたいなものが心のどこかに常に存在していたような気がいたします。
by ARC3391